

「そうそう。ここは半農半漁の島なんだけど、耕作地も家を建てる土地も限られているでしょう。水源も少ないし。だから増やそうにも増やせないのよ。といっても島の高齢化が進んでいて、今では住む人も減って30世帯ぐらいしかいなくてね…」

「ここでも過疎化の流れが…。家は長男が継いで、次男、三男は島外へ出るわけですよね。初島に移り住むことって可能なんですか?」

「お嫁に来てくれたらいいのよ~! 私の家でよければ大歓迎よ? あっはっはは~!」

「深刻そうなのに明るい~! ここの土地の人は外から来た人に対して、すごく優しいですよね。観光業が中心だからなのかなぁ」

「それはそうよ。島外からお客さんが来てくれないと私たちの生活は成り立たないもの。GWや夏休みシーズンは島内に人が溢れかえっちゃうくらいで。住んでる私たちも楽しいし、お客さんも魅力があるから集まってくれるんじゃないかしらねぇ」

アポなしで初島区長に話を聞いてみた

島の全体像を掴みつつあったものの、島民の方々が口を揃えて「詳しいことは初島漁業組合に聞いた方がいい」と言うのでアポなしで訪れてみました。
大丈夫かな…。

と思ったら、たまたま居合わせた初島区の区長であり、初島漁業協同組合の組合長でもある新藤康晴さん(一番偉い人!)にお話を聞くことができました。
運が良すぎる!

「突然お尋ねしてすみません。初島の取材をしているんですが、より正確な情報を知りたくて来ちゃいました」

「いえいえ、私でよければお答えしますよ」

「今日は熱海港から高速船で初島に来て、島内を散歩してきたのですが、富士急行さんとのお付き合いはどれくらいなのでしょうか?」

「富士急行さんとは1964年からのお付き合いなんですが、当時は熱帯植物園、ゴーカート、プールぐらいしかなくてバブル崩壊後に伸び悩んでいたんです。そこで一緒にアイデアを出し合って、2006年に全面リニューアルしました。トレーラーヴィラやキャンプヴィラ、そしてSARUTOBIの人気もあいまって、GWや夏休みは特に大盛況となっていますね」

「そんな昔からやってたんですね。島のお婆ちゃんが夏休みは人であふれかえるくらいだと言ってましたが、過剰な観光需要は良い面と悪い面がありませんか?」

「GWはこの狭い島に1日3,000人来ることもあるのですが、41人の地権者によって初島は成り立っている背景もあり、お店を増やすことができないんです」

「へえー、そうだったんですね。お店が増えないということは新たな雇用も生みにくい…。都心からのアクセスの良さで需要は高まっていても、そもそも対応できないというのは初島ならではの悩みかもしれませんね」


「さらに難しいのが、初島の文化が絶妙なバランスで成り立っていることです。41戸という括りも高齢化や後継者不足で、実稼働は30戸まで落ち込んでいます。普通の村と違って規模が小さいため、働き手が1人減っただけでも大きな影響を受ける…」

「地方創生問題の縮図みたいですね」

「そうなんです。なんとか一致団結してこの問題に取り組むべく、『土地は売らない』『境界を厳しくする』『人気(道徳)を悪くしてはならない』という島に伝わる三原則を強く働きかけているところですが…同時に外の価値観を入れないと後がなくなるのも事実です。しかし、一人の影響が大きすぎて失敗が許されない。仲が良くとも悪くとも島は家族である…その想いが島を維持してきた側面もあって、一歩踏み出せないのが正直なところなんです」

「もし全然島の風土に合わない人が入ってきて、島内の結束が崩れるのは避けたいわけですね。うーん。これまで地方の問題を取材してきましたが、離島の問題はまた特別な事情が絡んでくるんだなぁ」

「まずは島内唯一の学校の対応でしょうか。小・中学校合わせて5人しか生徒がいないんです」

「高齢化と少子化のダブルコンボ! 現在空いてる10戸近くの民家を有効活用しつつ、島の文化を受け継いでいけるといいですね」

「我々が島で生活をすること自体が文化の存続になるわけですし、だからこそ島の魅力が出るのは間違いないので。観光需要に応えつつ、島内の問題にもしっかり対応していきたいと思います」

「貴重なお話ありがとうございました!」
「めちゃめちゃ分かりやすい理由ですね。古くから41戸しか住んではいけない理由も、ライフラインの問題なんでしょうか」