”キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所”の見学ツアー
ウィスキーは生まれ育った風土や気候に大きく左右されます。
そこで今回、富士山の大自然がもたらす澄んだ空気と清らかな水の恵みを受ける御殿場の地でウィスキー作りを続けている”キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所”の見学ツアーを取材しました。
仕込みに使う「水」へのこだわり
富士御殿場蒸溜所が最もこだわっている点は、仕込みに使う「水」です。
この水は、富士の雪解け水が、1万年前にできたといわれている透過性の良い地層を流れ、50年の歳月をかけて自然に濾過された水であるということから、大変貴重なものです。
「富士の伏流水」とはよく聞く言葉ですが、ここであらためて理解を深めました。
キリンウィスキーが出来るまでの工程
二条大麦を水に浸して発芽させ、それを乾燥させた「麦芽」(モルト)がウイスキーの原料となります。
これを粉砕し、マッシュタン(仕込釜)の中で湯を加えてデンプンを糖に分解し、甘い麦汁ができます。
続いて麦汁をステンレス製の発酵タンクに移し、独自に純粋培養した酵母を加えて発酵させ、アルコール分7%の発酵液を得ています。
銅でできたポットスチル
発酵タンクで作られた発酵液は、蒸留行程を経てアルコールが濃縮され、クリアで風味が強いものとなります。
この蒸留に使うポットスチルは、雑味のもとになる硫黄成分を除去するために銅でできています。
また、一般的に、雑味の多い蒸留液の最初(ヘッズ)と最後(テール)を除いた中間(ハーツ)の部分だけを取り出しますが、富士御殿場蒸溜所ではヘッズとテールのボーダーラインをさらに中間部に近づけ、丁寧に取り出す「ハートオブハーツ蒸留法」を採用しています。
木樽の豊かな香りと色をふんだんに得るためのこだわり
蒸留を終えた無色透明の原酒は、樽に詰められ、樽を通して空気と触れ合い、熟成していきます。
富士御殿場蒸溜所では、木樽の豊かな香りと色をふんだんに得るため、あえて180リットルと小型の“バレル樽”を使用することにこだわっています。
平日しか見られないボトリング
熟成庫を過ぎると、いよいよボトリングの工程です。
長い眠りから覚めたウイスキー原酒が、ライン上で1本1本ボトルに詰められ、厳密なチェックが行われます。
このラインが稼働している様子は平日でないと見られないのが、多くの工場見学ファンにとっては悩みどころではないでしょうか。
次々とウイスキーが瓶詰めされていく様子にはついつい見入ってしまいます。
最後はウィスキーの試飲で〆
さぁ、いよいよ試飲の時間です。
ここまで見てきたこだわりの製造過程の様子と、富士の森で眠るウイスキーのイメージを頭の中で掛けあわせ、早速「富士山麓」をいただきます。
とても繊細で、清らかな印象。
ほのかに甘く、洋酒であることを意識させない自然な味わいは、飲み方によっては食中酒として楽しむこともできそうです。
特別インタビューを行いました
―見学コースの狙いは主にどういったことですか?
まず第一には、ウイスキーの魅力を伝えたいと考えています。
ウイスキーは嗜好性の強いものなので、一度ご見学いただくとファンになって愛飲していただきやすいのです。
コアなウイスキーファンの方に向けた20年ものの樽出し原酒が試飲できるバスツアーなども大変好評です。
―こちらの工場の特徴はどういったところですか?
見学コースとしてお客様にご覧いただいているのはウイスキーだけですが、実は水をはじめとして、缶チューハイなど様々な製品を作っている多機能な工場なのです。
将来的には、ウイスキーファンだけでなく、幅広いお客様にキリンのファンのなっていただけるような環境を整備していきたいと考えています。
それから、ウイスキーに欠かせない水は、富士山に降った雨や雪が50年の歳月をかけて自然に濾過されながら地中を流れてきたもので、これを地下100mのところから汲み揚げて使用していますので、この環境をいかに守っていくかにも注力しています。
―具体的にはどのような活動をされていますか?
この工場の敷地の50%近くを緑地として残しています。
また、地域のNPOと連携した「水源の森づくり」活動として、森林保全活動のボランティアの他、木々や野鳥が楽しめる自然遊歩道の整備等を行なっています。
こうした活動が認められ、昨年、「内閣総理大臣賞」をいただきました。
これは静岡県では2例目です。
今後も「水」をキーワードに、産業である工場と自然との共生を目指し、コアなウイスキーファン以外の方にも気軽に訪れていただける蒸溜所にしていければと思います。
ー キリンディスティラリー株式会社 中川工場長代理
「水」を守るため、自然と産業の共生を目指しています。